ものづくりの巧者が、
ことづくりに挑んだ。
ものづくりの明日に
可能性をひらくために。
長野県伊那市は、電子部品や精密機械をはじめ製造業が盛んな地域です。ただ、仕事を発注していた顧客が、中国など海外へ生産を移行するに従い、かつて製造業にあった元気はしぼみ、その影響は地域経済全体にも次第に及んできました。
私たちものづくり企業は、このふるさとでものづくりを続けたいと強く思っています。それは、個々の会社の生き残りをかけた切実な課題でありながら、日本に再びものづくりを取り戻したいとの願いでもあります。私たちは、MADE IN JAPANの価値をもう一度高めたいと本気で考えています。
日本の製造業に活気を取り戻すには、何が必要でしょう。下請けの仕事が減ってきたなら、新しい仕事を創ることです。現実問題として受注の波はあります。ただ受注環境が厳しいとき、自分たちで創り出した仕事があれば、波の底を持ち上げることもできます。
では何を創出するのか。目的は、日本に再びものづくりを取り戻すことです。だから新しい仕事とは、世界に発信できる魅力ある製品であるべきです。町工場を営む私たちが、自分たちの力で世界に通用する製品を、毎日仕事しているこの場所から生み出すのです。
新しい仕事の創出に際し、私たちはひとつの約束をしました。それが完全地産です。地元企業・団体で協力して、企画から製造までを手がけ、完全に地元産の最終製品を生み出すことを自らに課しました。
この約束は、ものづくりに携わる人間のプライドを刺激するだけではありません。約束を果たすため、参加メンバーは互いに工夫を出し合うことになります。そのプロセスこそ、日本のものづくりの明日をひらくヒントになると考えました。
日本のづくりが、海外のそれにすべての点で負けたわけではないでしょう。工夫する力は、私たちの優位性の一つです。下請けとして長年、品質やコストや納期等に関し、顧客からの難題をかたちにすることで、私たちは高度な技術とともに工夫する力を培ってきました。
その工夫が、たとえば品質の安定を生みました。たとえ小ロットでも安定した品質を出し続けられるのは、日本の中小零細企業の強さです。対応の細やかさ、スピード感もまたしかりです。
課題に対し、ときにもがきながらも、問題の所在を見極め、経験とノウハウを総動員して、どうにかして解決を導くその工夫する力、これをもう一度磨き直した先に、自分たちの未来はあると信じました。
また、完全地産という約束は、ものづくりのプロが、売ることを意識する貴重な経験をさせてくれます。常々私たちは、受注した仕事に関し、手がけた製品が検収されたことで良しとします。ところが、自分たちだけで完成品に関わることは、すべて工程を見渡せる喜びであるとともに、価格設定や販路づくりまで意識した仕事が要求されます。こうした経験も、今後の自分たちのものづくりを変えてくれると期待しました。
こうして、特徴ある技術やノウハウ、設備を持つ伊那市内の製造業者たちが、互いにつながることにより、新しい仕事を生み出す挑戦が始まったのです。
MADE IN JAPANの価値をもう一度高めたい。しかし、世界に通用する魅力ある製品が一朝一夕にはできません。そこで完全地産の第一弾プロジェクトとして挑んだのが、「製造業ご当地お土産プロジェクト」です。設計から金型、部品成形、組立、梱包まで、すべての工程を市内企業で完結させる“完全地産のお土産”をつくる取り組みです。
お土産を選んだのには、参加メンバーがふるさとへの思いを共有しやすいこと、地域全体を盛り上げる活動になりうること、販売面で観光との連携がとりやすいこと等の理由があります。さらに、お土産づくりは練習問題として取り組みやすく、自分たちの力で新しい仕事を創出する方法を経験する格好の題材です。こうして経験知を積むことが、やがて新技術・新産業を生み、製造業と地域経済を活性化させ、若者や高齢者、福祉雇用にもつながってほしいと願いました。
このプロジェクトには、企画段階から伊那市役所や伊那商工会議所に関わっていただき、私たちの製品を観光やインベントで利用してもらうことにしました。これにより、当初から一定の生産販売数を予測でき、完全地産に携わる企業の負担を小さくすることで、次の商品の企画、開発、生産が継続できる環境づくりを目指しました。
製造業の生産が安定すれば、地域での雇用も守れます。地域経済も元気になります。生みだそうとしているのは、その好循環です。実のところ自分たちがしているのは、地域全体に活力を生むための仕組みづくり、つまり「ことづくり」だと自負しています。
製造業ご当地お土産プロジェクトに挑み、これまでに私たちは4つの製品を生み出しました。たとえ町工場でも、連携すれば完成品を生み出すことができます。個々の企業が普段触れることのない市場やお客様に、自分たちの技術を広くアピールすることもできます。
コスト面ではまだまだ厳しい現実があることは事実です。ただ、参加メンバーは、完成品に関われたことにもう一度ものづくりのワクワクを覚えました。事業を継続する自信も少し取り戻しました。皆で集まっても会話が明るくなりました。次の企画へ向けて、アイデアが出るようになりました。
それは小さな変化かもしれません。でも、ものづくりを信じている私たちは、その小さな変化の意味も信じられます。そしてその変化の先をめがけ、私たちは自分たちの「ことづくり」のストーリーを大切に育てていきます。
これから、完全地産というスタイルが日本中に拡散して、面白い製品が各地で生まれていけば、きっと日本のものづくりの明日もひらける、私たちはそう期待しています。
製造業ご当地お土産プロジェクト
完全地産
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